プロローグ

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 …とある集落。名前は無い。そこではよく純度の高い魔導石が採掘される事から、辛うじて"魔石坑"という通称が残るくらいである。  最初にこの鉱脈を発見したのは、何と闇の力だった。少なくとも他の伝説で報告される様な"光の存在"で無かった事は、後の研究によって証明されている。 「…ふむ、こんな所に鉱脈があるとは。力を蓄えるには十分な場所だ」 「マスター、ここで力を蓄える場合は最低2年の充電期間が必要です」 「いや、実戦的な準備を考えれば2年も十分早い。わざわざありがとう、プロフェッサー」 「恐縮です、マスター」  この時点で魔石坑に住み着いた闇の力に関しては詳細が解明されておらず、通俗的に"マスター・アザゼル"と"プロフェッサー・フィネガス"の名が残っているだけであった。  更なる進展が文献に現れるのは翌月の事。あらゆる妖精国家から追放された異端者達がギルドを組織し、自分達の新たな国家を構築すべく活動拠点を探していた。その最中に見つかったのが魔石坑だった。 「…おぉ、こんな所に魔導石の鉱脈が?」 「ははぁ、珍しいな。一目見て魔導石だと分かる程の純度の高さ…」 「採掘して貿易の道具に使えば、経済力でパルミエ王国を追い抜けるかもしれないぞ」  もちろん来訪者の存在にアザゼル達が黙っている筈は無い。しかし相手も妖精社会のはみ出し者であった為、親近感を覚えたアザゼル達はギルドとの共存共栄を図ったのである。その際交渉に応じたのは、精霊の泉から追放された啓蒙思想家ガネーシャだった。 アザゼル 「…なるほど、そんな理由でこんな所に…あなた方も大変ですね」 ガネーシャ 「俺達は単に次世代的な哲学を提唱したに過ぎないが、他の連中の思想がそれに追い付いていないのさ。このギルドはそうやって迫害された異端者の集まりだ」 フィネガス 「次世代的…興味が湧きますね。故郷を離れてまでして固執するもの、内容によっては擁護しましょう」 アザゼル 「我々もただ世界を壊すだけの闇でありたくは無い…破壊するに足りる理由とメリットを求めた結果、闇の世界から捨てられた者です」 ガネーシャ 「つまり考え方は皆同じ、という訳か…良いな。共存をするに足りる闇だ、共にこの集落を育てよう」 フィネガス 「喜んで…旧来の発想に縛られた闇も光も、我々が否定するのです!」  互いに元の世界で異端者だった為、すぐに宥和が進んだ。この時、共存共栄の約束として、集落の中央に両者の署名が入った記念碑も設置されている。
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