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目に見えない何かに思い切り握り潰されている様な感覚……いや、そうじゃない。
見開いた彼女の目はしっかりとそれを見ていた。
自分の足をこれでもかと締め付ける白く細い手。
それを支える皮ばかりの細い腕。
そして不自然に車体から生えている女性の身体。
どこかべったりと湿っている肩ほどまでの黒髪。
その下から覗く黄色く濁った見開いた眼球。
「この世に未練があるのだろうが、ここはお前の住む世界じゃあない!
大人しく……消えるんだ!」
力強く女子高生の肩を押さえると、林田は何やら経の様なものを低く唱えはじめた。
するとどうだ。
今まで恨めしそうに女子高生を睨み付けていた女の顔が、突如苦悶に満ち始めたではないか。
林田がさらに力強く経を唱えて数秒、女は水中にずるりと引きずり込まれる様に、車を透過して地面の下にへと消えていった。
抜けた髪が生々しく、車内に散らばっている。
目の前で起こった事があまりに非現実で、あまりに気持ち悪くて、彼女は目を見開いたまま息をするのも忘れている。
林田は女が消えた地面を見つめながら、ぐっと眉根に皺を寄せて低く唸った。
その廃屋で過去に何があったのかは分からないが、相当強い念を感じた。
現場に行くのはやばいかもしれないな。
林田は心の中で呟くと、気を取り直したように息をふっと吐き出した。
「さぁ、もう大丈夫だ」
林田にぽんと肩を叩かれ我に返る彼女。
「ねぇ、今のって……」
「まぁ、あれだな。
心霊スポットなんて所には気軽に行くなって事だな」
林田は軽く笑うと、
「そういえば……」
と思い出したかの様に目の前の女子高生を見つめた。
「まだ名前を聞いてなかったね」
彼女は一瞬微妙な表情を見せたが、
「高田智子よ」
と苦々しく微笑って見せた。
「そうか。よろしく高田さん」
林田はさてと一息付くと、ようやく本題に入る事にした。
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