第二章 3月9日 高田 智子

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 一体彼の身に何が起こったのか。  また、臓器が損傷しているという共通点がある大学生との死とは、何か関係があるのだろうか。  想像すらし難いこの事件は、結局真相は謎に包まれたまま一年余りが過ぎていった。  おそらくそれだけであれば猟奇的な事件で終わったであろう。  それだけであればただの怪死で解決したのだろう。  だが、ここにきて新たな噂が流れ、それらは怪奇的な事件へと発展したのだ。  どうやらその男子生徒、事件の数日前にある場所に訪れていたらしい。  それは市内のはずれにある小さな森――忘れじの森だ。  多年草の勿忘草が多く生息している為そう呼ばれているその森は、古くからその地に存在し、人々に多くの恵みをもたらしてきた。  今でもその森は遊歩道があったりと市民には親しまれているのだが、ひとつだけ都市伝説的な噂話がある。  根も葉もない噂話で、誰もその真否を気に留めてはいなかった。  だが、その猟奇的な死を遂げた青年が、それを目撃していたとしたら。  それに触れた事を数人の知人に漏らしていたとしたら。  それを境に気が振れたかの如く何かに怯えていたとしたら。  果たして気にしないでいられるだろうか。  例えただの都市伝説であったとしても。  男子生徒が訪れたと思われるその場所は、誰も知る事のない幽玄の屋敷……忘れじの森の幽霊屋敷。  誰が言い始めたのか、いつから在るのか、知る者はいない。
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