第二章 3月9日 高田 智子

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 ましてや、あるはずがないと思っている幽霊屋敷を探す為となると、億劫以外の何物でもない。 「まぁそう言うなって。  例の死んだ大学生が見たって言ってたんだ。  あるかもしれないだろ」  ぽんと卓の肩を叩いたのは三田義明だ。  卓より頭ひとつ分高く筋肉質だ。  女子からの人気も高く、夏美が好意を抱いているのも彼なのだ。  ちなみに光彦は義明より少し低い174センチで、細身である。  三人並ぶと今にもコントでも始めそうな雰囲気だ。 「もういいからさ、さっさと回ってさっさと帰りましょ!」  ぐだぐたしている男子に痺れを切らし智子がまくし立てた。  いつの世も女は強いのだ。  目的地の森へはコンビニから5分程の場所にある。  高さ70メートル程の、山とは言えないこの森の入口は、車20台分の駐車場と「ようこそ、忘れじの森へ」と書かれた木製の看板が目印だ。  風に吹かれ木々がごうごうと唸りをあげた。  ヨウコソ、ヨルノモリヘ。  誰かがごくりと唾を飲んだ。  変な噂がなくとも夜の森とは何とも不気味なものである。  昼間は散歩をする人や山菜を採りに来る人などで多少賑わうこの森も、夜となれば全くと言っていい程人の気配はない。  ましてや時期が時期だ。  この寒空の下わざわざ夜の森へ赴く者などいない。  入口の駐車場を越えると左右と正面、そしてそれらの真ん中に一本ずつ、計5本の遊歩道が見える。  幅2メートル程の綺麗に舗装された遊歩道は、森を一周するゆったり散歩コース、森の中腹を経由する森林探索コース、森の頂上まで真っ直ぐに伸びる登山コースの三つからなっている。  遊歩道の途中にはベンチやトイレが設置されており、ルートの途中ではそれぞれのコースと交差している場所もあるので、途中でのコース変更も可能である。  ただ外灯が設置されていないので、夜歩くには向いていない。  特に注意しなくてはならないのが遊歩道以外の場所だ。  目印となるものが少ないので道に迷いやすく、崖や池などもあるので多少危険が伴うのだ。  まぁさほど大きな森ではないので、ひたすらに直進していればいずれは森は抜けられのだが、それにしてもかなりの時間と体力を消費するのは間違いない。  5人はそれぞれ手に懐中電灯を持ちながら、中央の登山コースの道を歩き始めた。  ひとまずの目的地は山腹にあると言われる古井戸だ。
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