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市民なら殆どの者が知っている事だが、この森はかつて金属類の採掘が行われていたのだ。
その為中腹付近には二ヶ所程採掘時に掘られた横穴が存在する。
もちろん今は使われていないのだが、特別立入禁止の看板があるわけでもなく、バリケードも張られてはいない。
そして今向かおうとしている古井戸はその時に作られたものだと言われている。
「なあ光彦、どうして井戸なんだ?
もっと他にもあるんじゃねーのか?」
義明が木々を掻き分けながら光彦に尋ねた。
暗い森の中を懐中電灯の明かりだけで歩くのは中々困難だが、草葉がないだけまだましかもしれない。
「そうよ。
屋敷っていうくらいなんだから、池の付近じゃないの?
ちょっ、こっちにライト向けないでよ!」
「ははは、池って。
お前ら実際井戸のとこって行った事あるか?
……おれはまだない」
智子をからかいながら光彦は手元の地図をライトで照らした。
「これは親父が言ってたのを参考に地図に印を付けたものなんだけど……ここ見てくれよ。
ちょっとおかしくないか?」「え、どこどこ?」
智子と光彦を中心に、5人は光彦が照らす手書きの地図を見つめた。
「ようこそ忘れじの森へ」と書かれたガイドマップの地図に、赤いペンで数ヶ所書き込みがされている。
井戸と採掘場の場所だ。
「……これの何がおかしいの?」
「……本当だな……確かにこれは調べてみる価値はありそうだな」
頭の上にハテナマークを浮かべる智子を尻目に、義明が右手の人差し指と親指で顎を摘みながら頷いた。
「あ、本当だ。
何か不自然よ、これ」
夏美も義明に同調しうんうんと頷いている。
困った様な表情で智子は再び地図を睨み付けた。
いつも間の抜けている夏美に負ける訳にはいかない。
「あ、もしかして……」
よく見てみると少しおかしな点がひとつだけ見付かった。
それは、井戸と採掘場の距離だ。
採掘の為に掘られた井戸だとするならば少し、いや、かなり遠すぎるのだ。
「そうなんだ。
どう考えてもこの井戸の場所はおかしい。
親父はそこの下にしか水脈がなかったんだろうって言っていたけど、それにしても離れすぎてると思わないか?」
この地図からだと、採掘場は森の中心から西南に位置しているのだが、目的地である古井戸はというとそこから約3キロ近くも離れている。
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