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赤家京子は夜が好きだった。
小さい頃は暗くて好きではなかったが、見上げる星々の輝きとまぁるいお月様が、次第に彼女を魅了していった。
休日の前の夜は決まって車を走らせ、お気に入りの夜景スポットで星を眺めるのが彼女の日課であった。
明日は26日水曜日。
10日振りの休日だ。
仕事が終わり家に着くなり、着替えも早々と再び家のドアを開けた。
1Lのマンションだが、荷物の少ない彼女にとっては十分な間取りの城である。
京子はいつもの様に足早に駐車場へ向かい、車のエンジンをかけアクセルを踏んだ。
京子の愛車はピンク色の軽自動車だ。
馬力はないが、普段車も乗らず特別スピードを出すわけではない彼女にとっては、十分すぎる自慢の愛車であった。
郊外に向かい国道を15分程走ると、やがて右方に小高い山が見えてくる。
あの山が目的地である。
目印のコンビニを右に曲がりひたすらにまっすぐ車を走らせる。
道は左右にうねってはいるが極端に狭くもないので、スピードさえ気を付けていれば怖くはない。
京子はいつもの様にいつもの道を快適にドライブしていた。
……はずであった。
しかし、この日は何かがおかしかった。
まず、京子が気になったのは車のエアコンであった。
急に冷風の勢いが弱まり、生温かい風が吹き出し口から吐き出され始めたのだ。
一瞬にして車内がじとっとした湿った空気で充満する。
「おかしいわね」
京子はひとまず窓を開けてから、エアコンのスイッチを繰り返し押し続けた。
反応は、ない。
エアコンの吹き出し口からは、壊れた水道の様にただひたすらに生温い風が流れてくる。
京子は当然の様に故障かと思い、特に気にする事もなくそのままドライブを続けた。
緩いカーブを右に、左にとハンドルを回す。
山道からの景色も中々素晴らしい眺めだ。
ビルや家々の窓の明かりの中を、駆け巡る血液の様に車のヘッドライトが群れをなしている。
助手席側の窓から視線を正面に戻した。
……瞬間!!
白い何かが車のヘッドライトに浮かび上がった。
「……きゃっ!?」
京子がそれに気付き、急ブレーキを踏んだ時にはもう遅かった。
瞬きをする間もないほんの一瞬。
それは車のフロントにぶつかると、倒れ込むようにボンネットの上で転がりフロントガラスに激突し、ふっと後方へと消えていった。
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