第二章 3月9日 高田 智子

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 歩けば30分以上はかかる距離だ。 「でもよー、たった3キロだろ?  ちょっと微妙な距離だよなぁ」  卓が首を傾げながらぶうたれる。 「まあな。  だけど井戸に行ってみる価値はあるだろ」  5人は僅かな明かりと地図を頼りに森の中を歩き続けた。  どれくらい歩いただろか。  途中卓が躓いて転ぶというハプニングもあったが、それ以外は何事もなく、そのうち五人は突然視界が開けた場所に出た。  木々が一切生えていない不毛地帯だ。  まるで作られたかの様なその空間は、およそ距離五〇メートル、幅三〇メートル程で、その先は崖になっていて道はなく、下までは悠に数十メートルはある。  落ちればひとたまりもない。 「明らかに不自然だよな……」  卓が中央にぽつんと浮き出ている円形の物質を見て漏らした。  ちょうど広場の中央に、石造りの古びた井戸が異彩を放って佇んでいる。  特別この場所への道があるわけでもなく、不自然にぽつんとあるのだ。 「もし採掘の為に掘られた井戸なら、採掘場へと通じる道があってもいいはずだな。  この辺りを少し調べてみようぜ」  光彦は嬉々とした面持ちで辺りを捜索し始めた。  智子と夏美が大きな溜息をつきながら顔を見合わせる。 「もう飽きたよね」 「うん」 「三田君ともっと話してくればいいじゃん」 「えぇ~……だって、ねぇ」  智子は悪い事を思い付いた悪戯っ子の様ににんまり笑うと、 「あだっちゃん、ちょっといい!」  と、義明と話している卓を呼び付けた。 「ちょ、何するのさ!?」  嫌な予感がしたのか、夏美が慌てて智子を見やる。 「あたしはあだっちゃんと光彦と三人でぷらぷらしてるから、あんたは三田君と仲良くやっといで」  そう言うと智子はとぼとぼ歩いてくる卓の方へと駆け寄った。 「どうした?」 「いいからいいから」  不思議そうな表情の卓の腕を引っ張り、光彦の元へと連れて行く。 「ん、何かあったのか?」  駆け寄ってくる智子と卓を見て、当然の如く光彦も不思議そうな表情をする。
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