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「二手に別れて探索しよ!
きっと何かあるよ」
智子は強引に夏美と義明を二人きりにしよう作戦を決行したのだ。
ちらと夏美の方を見ると、すでに義明と何やら話している。
どうやら上手くいったようだ。
それからはしばらく三人で行動した。
この崖の下には、普段肝試しでよく使う謎の影があると光彦が教えてくれたので、智子は恐る恐る四つん這いになりながら下を覗き込んだ。
「暗いし何も分からんよ」
ぶうたれる智子に苦笑する光彦と卓。
よく夏になると若者たちの間で行われる肝試しツアーは、森の入口から見て右方の散歩コースと散策コースの丁度真ん中にある獣道を真っ直ぐに進む。
するとそのうちやや開けた空間と高い岩壁に突き当たる。
その壁が肝試しの最終地点なのだが、偶然なのか何なのか、そこには人間が苦しんでいる様な暗い影が染み付いているのだ。
周囲の色とは明らかに違うその影は、夜の闇よりもなお暗く苦しみに染まっている。
実際はただの染みかもしれないが、とりあえずその人間の染みが気味悪がられ、肝試しの執着地点とされているのだ。
起き上がると智子は、井戸を調べたいという光彦らと共に井戸を覗いてみた。
懐中電灯で中を照らしてみたが、どうやら底が見えない程深いらしい。
「ロープでもあればなぁ」
「いやいや、流石に入るなら昼だろ」
「よし卓、行ってこい!
……お前のボディじゃ無理だな」
「おわっ、ひでーなぁ」
「あはは。
でもよ、やっぱりこの井戸は採掘の為じゃないと思うんだよなぁ……近くに民家があったとしか考えられん」
確かに。
そうでないとこの位置の井戸は不自然過ぎて説明がつかない。
「ま、ないんだからないんだろ。
それよりもう帰ろうぜ」
「そうだな。
お前ももう空腹だろ」
「……んなことねぇよ」
光彦と卓がつまらないコントを繰り広げてる中、智子は辺りを見回しふと、夏美と義明の姿が見えない事に気が付いた。
「あれ?
夏美と三田君がいないんだけど……」
「え?」
「本当だ」
どこに行ったのだろう。
まさか二人であんな事やこんな事を……いやいや、夏美に限ってそれはない。
あいつは意外と奥手だ。
じゃあ何かあったのか?
智子が色々と思案していたその時だ。
突然自分を呼ぶ夏美の声がした。
三人に緊張の影が走った。
夏美の声がどことなく緊迫した声だったからだ。
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