第一章 3月16日 林田 敏弥

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 森付近の住人に訊いても、そんな家は知らないと言うばかりだ。  どう考えても不思議な何かがあるとしか思えない。 「やっぱりその友達に聞いてみるしかないか」  未成年者ということもあり、名前や住所等は一切伏せられている。  まずはどうやってその友達を見付けるかだ。  林田は佐藤夏美の友達を探すため、ひとまずS高校へと向かった。  ここから車で10分程だ。そう遠くはない。 「……ん?」  車を走らせて少ししてからだ。  林田は妙な光景に目を細めた。  変な男が執拗に女子高生に迫っている。  女子高生はというと、しつこく迫る男を無視するかの様に、すたすたと歩き続けている。  彼女が嫌がっているのは顔を見れば一目瞭然だ。  そしてその彼女を追う男が何者なのかも、手にしている録音器を見ればすぐ分かる。  どこかの記者だろう。  ということはあの女子高生はもしや……。 「もうその話はやめて下さい」 「そんな事言わないでさ。  こんだけ騒がれているんだ。  君だけが知ってる何かがあるでしょ」 「そんなのありません」 「そんな冷たくしないでさ、何でもいいいから……」 「おい、そこまでにしておけ」  男は急にかけられた声にどきりと一瞬肩を強張らせてから、ゆっくりと後ろを振り返った。「……何だあんた」 「その娘の父親だ。  度が過ぎると警察を呼ぶぞ!  さぁ、とっとと帰れ!」  男はぐっと苦虫を噛み潰した様な表情すると、悪かったなとぼそりと呟きそそくさとその場を後にした。  その後ろ姿を見送りながら、林田は内心にやりと口の端を上げた。  しっかりと恩は売った。後はこの娘からしっかりと情報を手に入れればいい。 「君、大丈夫かい?」  極力優しく声をかける。  相手を必要以上に緊張させてはいけない。 「はい……ありがとうございました」 「いや、いいんだ。何て事はないさ。  ところで……どうして記者なんかに迫られてたんだい?」  自然な流れだ。  林田はいつもの様に「何も知らない人」を演じながら女子高生に質問をした。  彼女はというと、一瞬困った表情を見せたが、 「実はあたし……」  と、事件の事を語り出した。 「今騒がれてる失踪事件の当事者なの……おじさんも知ってるでしょ?  幽霊屋敷の事件」  林田は少し驚いた様に目をしかめると、 「そうか……君が……」  と彼女を見つめた。
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