第一章 3月16日 林田 敏弥

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 林田の言葉に小さく頷く女子高生に、林田はここぞとばかりに懐から名刺を取り出した。 「実は私はこういう者なんだ」  林田の行動に彼女は少し嫌そうな表情を見せたが、しぶしぶ名刺を受け取り面を見る。 「……霊能探偵社?」  彼女は驚いた顔で目の前の中年の男を見上げた。  正直頼りなさそうなただのおじさんだ。  どんな会社か分からないが、そんな大層な仕事が出来る様な人には見えない。 「あの……これって……」 「実は社長から言われてね。  この事件の事を調べていたんだよ。  でもどうやら……社長の勘は当たっていたみたいだ……最近左足が痛いんじゃないかい?」  もちろん全て出鱈目だ。  記者に敏感に反応する人にはいつも違う方向から接触しているのだ。  だがもちろん、言われて彼女はどきっとした。  別段何をしたわけではないのだが、ここのところ妙に左の足首が痛むのだ。  そう、あの日の夜以来ずっとだ。  思えば日に日に痛みも増していっている気がする。 「ちょっと車に来なさい……なぁに大丈夫。  変な事はしないから」  言われて半ば強引に車に乗せられた彼女。  だがそこは今時の女子高生だ。  いつでも叫ぶ準備は出来ているし、いざとなれば急所でも蹴り上げて警察に走る覚悟までしていた。 「ちょっと失礼」  女子高生の生足を噛り付くように触る中年親父。  端から見ればただの変態だ。  だが…… 「……いやっ!?」  彼女が拒絶の悲鳴をあげたのは林田が触ったためではない。  林田がめくったソックスの下。  丁度足首のあたりか。  今まで気付かなかった……いや、今まではなかったはずの奇妙な痣。  誰かに強く掴まれたかの様な、赤黒い手形の跡。  これは一体…… 「おそらく君達がその幽霊屋敷に行った時に掴まれたのだろう……かなり強い念を感じる」 「あたし……どうなるの!?」  恐怖に顔を引き攣らせながら、彼女は救いを求める様に林田を見つめた。 「大丈夫だ。私に任せなさい」  林田はそう言うと彼女の後ろに回り、その肩にそっと、しかししっかりと力強く両手を置いた。 「彼の娘に取り憑きし悪しき怨念よ、この身体より早々に立ち去り在るべき場所へ帰りたまえ……帰りたまえ!」 「うっ……!!」  突如耐え難い程の激痛が彼女の足首を襲った。
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