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「あっ、と……すみません」 繊細な手の持ち主は私に軽く頭を下げ、私の後ろを回って立つ位置を変えて、再び冷蔵庫に手を伸ばす。 手にしたのは、杏仁豆腐の横のカフェオレ。 ていうか、そんな事はどうでもいいよ。 何ですかこの素晴らしいイケメンは。 認識した途端、コレステロールを多量に含んだドロドロの血液が、ノロノロと顔に移動をし始めて。 と同時に、心臓に多大な負担がかかる。 病的に痛む胸は、トキメキと呼ぶには相応しくないけれど。 でもーー。 食べ物の事しか考えないデブ脳が、パン屋の中で食べ物を忘れる。 緊急事態が発生していた。 けど、彼の目には、面積がだだっ広い私を以てしてもただの物としか映っておらず、意識外で。 カフェオレと、野菜がたっぷり挟まった、私が絶対に手を出さない様なヘルシーで小洒落たパンを手に、直ぐに私に背中を向けてレジへと足を向けた。 目が、自然と彼を追い掛けていた――。
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