章間.因縁の暗躍

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〝灰夜!〟  不意に、現れたように被った。  目の前に、兎村の顔がある筈のそこに、もう居ない筈の彼女の笑顔が。 〝ばーか! あははっ〟 (あれ……)  あの頃の……忘れるはずもないあの頃の記憶が次々に浮かんでくる。  まるで走馬灯のように。 〝好き……灰夜〟 (なんで……)  耳に響く彼女の声が、目頭を熱くさせる。  力を入れられない今は、溢れる涙をこらえる事が出来そうにもない。 「っ……うっ……ぁ……」 「え……えっ、ええっ!?」  今の数分で兎村を二回も驚かせてしまった。彼女からしてみれば、もうどうしたらいいか分かんなくてお手上げだろうな。  ……なんで、あいつの……彩音の記憶がこんなに浮かんでくるんだ。  オレの、この世で一番大切な── (……お前のせいなのか?)  兎村じゃない。……俺の、中へと問いかける。  心の中に宿る、野獣の魂へと。  無論、返答がないのはいつもの事。ただ後に残るのは、同情に似た何か。  オレも、その野獣も、一つの存在。同時に、同じ被害者。  苦しんでるのは……オレだけじゃない。 「ごっ……ごめんなさい……!」  何故か謝罪した兎村の声で我に返った。 「……何でお前が……謝んだよ」  早くも回復してきたらしい。声も何とか出せるし、体も起こせた。 「あのっ……なんか……悪いこと……したのかな……って……」  少し泣き目。こいつまで涙するまえに不安を取り除いておかないとな。泣かしたのみんなにバレたら袋叩きにされる。 「っ……大丈夫だ。兎村は悪くねえよ。ちょっと疲れてただけだから。なっ?」  目を腕で擦り、元気だぞとアピールするように勢い良く立ち上がってみせた。 「……それより、誰にも言うなよ? 心配かけんの嫌だからさ」 「………………」  しかし、分かってんのかと突っ込みたい程に無言でじーっとオレを見続ける。 「……なんだよ」 「灰夜くん……もしかして……心の病……とか」 「………………」  周囲のオレに対する扱いが酷くなってんのはやっぱ錯覚じゃないらしい。  ……やっべぇ。 ―――――――――――
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