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「こ、神坂っ、もう走れないっ!」
「……鞄貸せっ」
謎の事務所を出てから、アイツは一言も口をきく事なく
雪に濡れたアスファルトをフルスピードで駆け抜けていく。
何度も何度もあたしは通行人をかすめたり、躓いてコケそうになったり。
それでも、神坂は止まってなんかくれない。
スピードを緩める事なくあたしの重い鞄を奪い取ると、また前へ向き直る。
「重てぇ。これ何入ってんの」
前を向いたまま走る神坂から、白い蒸気が流れては舞う。
「けっ…あっ…とか……えっ…か」
「何言ってんのか分かんねぇ」
だったら止まって下さいよ。
運動不足のあたしには、神坂のスピードについて行けるような体力はない。
そんなあたしの姿を振り返っては、アイツはクスクスと楽しそうに笑った。
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