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「‥は…?」
闇色に染まる世界の中…
月明かりに照らされた丘上に、二つの影がいる。
銀の腕輪が煌めく一方は驚愕に顔を歪め、金の耳飾りが煌めく一方は、
それをただ見つめていた。
「今…何て、言った?」
銀の光を揺らしながら、声を震わす。
それに対し、
風に拐われた髪を掻き上げた金の光が徐に口を開いた。
「私、家を捨てるわ。」
その口は紅く、
暗闇の中でも
嫌と言うほど目に留まる。
「だから…お別れを言いたくて。」
「…ッ何言っ、おい待て!!まだ話は――ッ」
もう話は終わりだと、踵を返す背に影は叫ぶ。
しかしそれを強風が遮り、声は途中で途切れてしまった。
長い静けさが辺りを包み
金の光を揺らして、影が振り返る。
「―――清雅。」
紅い唇が揺れる。
呟かれた言葉は…
『 』
その願いは、
彼に囁く最後の愛だった。
06.願う
全てを捨て、最愛の人に別れを告げる女。その願いは、無惨にも闇に消えた。
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