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けれども、あたしから彼の者のところへ向かう訳にはなりません。
はしたのない娘だと思われたくはありませんもの。
あたしは待ちました。
いつか彼の者があたしに気付き、あたしを迎えに来てくれる時を。
一つだけ憂い事がありました。
もし彼の者があたしを迎えてくれたとしても、あたしは人で、きっと、刹那の刻しか彼の者と供に居られないのだろうと。
ある日、一番末の娘がぜえぜえとだらしなく息を荒げて帰って来ました。
確か彼女は山菜を採りにいっていた筈です。
彼女は夫婦に泣きつき、こう言いました。
「おっとさ、おっかさ、この山にはやっぱ妖怪が住んでるるよ! 八つの頭を持つ、おっきなおっきな蛇が……!」
それを聞いた家族はすっかり震えあがってしまい、おぞましい、おぞましいと口にしながらお互いの事を抱き合っていました。
彼の者のいったいどこがおぞましいと言うのでしょう。
まったく理解が出来ません。
そして何より許せなかったのが、彼女のとある一言です。
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