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私はこの山の主である。この山を守る事が私の使命だ。
春の訪れを知らせて走る野ウサギや鹿。
日の光に青々と輝く草木。
夏の夜には鈴虫の鳴き声。
昼の蝉の合唱。
蜩が鳴けば、秋は木の実がごろごろと落ち、リスやたぬきが冬に備える。
積もる雪を突き進む猪の雄雄しい足音。
山を汚す者があれば、ただちに排除する事が私の使命だ。
その為だけに、この八つの頭や牙や頑丈な鱗は与えられた。
しかし私は争い事が嫌いだ。何よりも、煩わしいのだ。
この山で平穏に眠っていられるなら、それ以上の幸せはない。
数年前、山に人間が入って来た。
人間が入る事自体は珍しくはないのだが、彼らはここに住もうとしているようだ。
私の存在を知っているのだろう、彼らは彼らでその日丁度を送れるほどのささやかな生活をしていたので、別に構わなかった。
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