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「…帰る」
ごめん、ありがとう。
おやすみなさい。
と。
すっくり立ち上がった私を、哲はものすごく嫌そうに見上げて。
いいから座れ、と。
私の手を、思い切り引いた。
「蜜」
「……」
「そんな真っ青な顔して、何が“おやすみなさい”だ」
哲の手は、いつも優しい。
ずっと、手ぇ繋いで行きたかったけど。
巻き込んじゃ、駄目。
哲は、巻き込みたくない。
哲の手は。
私を離さない。
いつもよりずっと、強い力で私を抱き寄せて、立ち上がらせてくれない。
「蜜」
何かおかしなもん、あったのか?
郵便受けに?
玄関に?
何がそんなに、怖かった?
「………あったんじゃ、ない。なくなってる……の」
言わないでおこう、巻き込んじゃいけないんだから、と、心に決めたのも束の間。
私は、哲の囁くような詰問に。
言わなかったら、きっと哲は、傷つくに違いない、と。
どうするのが一番いいのか判らないままあっさりと、口を割った。
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