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「じいさんやぁ…ご飯ですよぉ…」
庭で、刈ってきたばかりの芝を整理していたトメ吉は、服のホコリをはらい、縁側から家に入った。
トメ吉とシズエには子供がいない。
山の中腹にポツリとたたずむ小さな小屋で、自給自足の質素な生活を送っていた。
「たまには腹いっぱい旨いモン食いたいのぉ、ばあさんや…」
ずり落ちそうな老眼鏡を鼻の頭に乗せて話すトメ吉は、じいさんと呼ばれるほど老けてはいない。
「贅沢言うんでねぇ、じいさん…町は人間関係や病気や交通事故や、面倒なことがたくさんあって、降りたくねぇって言ったのはじいさんでねえか…」
「そうじゃのう…シズエ、すまんのう…」
「あたしはこれで幸せですよ、じいさん…」
子供を諦めた頃から、いつのまにか(じいさん、ばあさん)と呼び合うようになっていた。
そんなある朝、
いつものようにシズエが川で洗濯をしていると、後ろのしげみのほうから、赤ちゃんの泣き声がする。
見ると、フルーツのカゴにびっしり詰まった果物の中に、赤ちゃんがいるではないか!
「まあ!かわいそうな子…こんな所に置き去りにされたら死んでしまうでねえか…」
シズエはカゴごと担いで家に帰り、庭にいるじいさんに訳を話した。
「育てるしかねえか…」
名前は一緒にカゴの中に入ってた桃から【桃太郎】と名付けた。
「誰が捨てたか知らんが、立派に育ててみよう、ばあさんや!」
-②へ続く-
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