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◆◇◆◇◆◇
その②
清美と晴香はタクシーで通勤している。
夕日が眩しく車内に突き刺さる。
普通のサラリーマンなら仕事が終わる時間帯、彼女達はこれから出勤する。
その日はいつもと違うタクシーを使ったのが悪かった。
「ちょっと、おかしくない?いつもと道違うし!」
「運転手さん!なんかいつもより高いんですケド[★]」
「清美…あたし達なめられてるよ…」
傲慢そうな運転手はメーターどおり支払え!と首を曲げない。
三人がモメている所を、たまたま通りかかった太郎が足を止めた。
日雇いのバイトを終えて重い足どりで家に向かう途中だった。
家には妻がひとり、太郎を待っている。
いや、太郎のポケットに入っている日給を待っている。
お金の事しか頭にない。
そんな鬼嫁の顔を思い出し、ため息まじりの帰り道だった。
タクシーの運転手と若い女ふたりが言い合いになっている。
太郎は以前、タクシーの運転手だった時期がある。
気は小さいが、風貌はイカツイ。
かつての運転手の知識とその風貌で、なんなく女を救った。
「ありがとうございます!あの…よかったら今夜ウチらの店に来ませんか?お金は大丈夫です!ママにも話しておきますから…」
「ああ…行けたら行くよ…」
妻の顔が浮かんだ。
「あの…お名前聞いていいですか?」
晴香が長い髪を掻き分けながら太郎に問いかけた。
「…浦島です…」
「じゃ、待ってます!
あたしはキヨミ!で、こっちの髪長い娘がハルカ!ヤバイ!あたし達は急がないと遅刻しちゃうわっ」
太郎は路上に腰を下ろし、夜の街に消えて行くふたりを見つめながらタバコに火をつけた。
名刺をもらった。
真ん中に手書きで
【ハルカ】
と書いてある。
◇◆◇◆◇◆
コスプレスナック
【龍宮城】
◆◇◆◇◆◇
(ハルカって…本名じゃねーのか…でも、案外すぐそこだな…)
もらったばかりの給料を、外ポケットから内ポケットに入れ替えた太郎は、そのまま夜の街に消えて行った。
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