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◆◇◆◇◆◇
その③
「いらっしゃいませ。お話は清美と晴香から聞いています。
そのせつはありがとうございました。
わたしは【乙姫】といいます。
今夜はなんの心配もせずに、ゆっくり楽しんでいって下さいね」
どうやら、この【乙姫】がママらしい。
店内は、なんのことはない、海をイメージした造りの中を、人魚コスチュームの女の娘が接客している。
清美と晴香もいた。
清美はボックス席で、晴香はカウンターで、それぞれサラリーマン風の客に付いている。
浦島は、一番奥のボックス席に案内された。
途中、晴香と目が合った。
浦島が、軽く会釈すると、晴香は、サッと片目を閉じてウインクしてきた。
(晴香や清美は若いだろう。22~3歳ってとこか?)
乙姫が作った水割りのグラスを掌で転がしながら、ひさびさの酒に酔いしれた浦島は、
「ママも一杯どうぞ!」
とグラスを傾ける。
「あら?ありがと!今夜はもともとあたしのおごりだけどね!」
30半ばだろうか…
いわゆる和美人ってやつだ。
乙姫の衣装より和服が似合いそうだ。
ちょっとした料理もあった。
一応、海にちなんで、魚介類メニューばかりだ。
もう一度、服の上から内ポケットの封筒を確かめて、妻の顔を思い浮かべた。
乙姫の優しい細い目が、浦島の頭の中を掻き消した。
それから先は覚えていない。
ベッドの上で目覚めた浦島の横には、乙姫が小さな寝息をたてていた。
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