ふたりの太郎

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◆◇◆◇◆◇ その⑥ 「ばあさんや、桃太郎がまた泣いとるぞ、オシッコかいのぉ?」 「この泣き方はご飯ですよぉ、じいさん。」 ふたりの生活に活気が戻ってきた。 シズエは山で取ったキノコや野菜を調理して、瓶に詰めて丁寧に保存していた。 桃太郎は、それを食べてすくすく成長していった。 トメ吉も芝やマキを刈り、嫌いな街まで売りに行った。 ◇◆◇◆◇◆ 牧野はすぐに動いた。 サル吉と清美を呼び、入念に指示をした。 そしてその計画は実行された。 店のボックス席で、清美は少し甘えた口調で浦島に言った。 「あの山に登ってみたいわ…連れていってくれないかしら?」 浦島はすぐに了承した。 赤ちゃんの件以来、乙姫の部屋に行きづらくなっていた。 その夜、暗い山道を登る浦島の後ろを、手を引かれながら慣れないフリの清美がついて来る。 ちょうど、あの赤ん坊を置き去りにした川に出た時、清美がつないでいた手を離した。 「ん?どした?!」 ひさびさの仕事だった。 といっても、サル吉にとって【喧嘩や脅し】の経験はあるが、【殺し】は初めてだった。 川の木陰でふたりを待つ。 「靴ズレで足が痛いわ…!」 そのセリフが合図だ。 浦島の背後から、音もなくサル吉が近付く。 背中に2回、ナイフを突き刺した。 清美は急いで木陰に隠れた。 震えが止まらない。 幸い暗くて、浦島やサル吉の表情はわからなかった。 牧野に気にいられたかった。 牧野の、乙姫への愛情が徐々に薄れていくのを間近で見ている。 順番的には自分か晴香にチャンスがあるはずだ。 サル吉が、3回目のナイフを首スジに突き刺した。 浦島の体はそのまま前に倒れ込み、動かなくなった。 その後もふたりは、牧野の指示どおり、草ムラに穴を掘り死体を放り込んだ。 着ていた服も一緒に穴に入れ、用意した新しい服に着替えることも忘れなかった。 清美の震えはすでに止まっていた。 (これで牧野があたしを見てくれる…) サル吉は、明日の夜からしばらく、北海道で身を潜める事になっている。 (オレのやりたいコトはこれでいいのだろうか…) 無言で山を下りるふたりは、それぞれの今後を妄想した。 その頃、牧野は浦島の家を訪ねていた。 浦島の妻、安子は性格はともかく、相当の美人だ。 乙姫が和美人なら、安子は西洋的な雰囲気を持っている。 牧野は安子に全てを話し、その夜のうちに自分のものにした。
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