隙間の人

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その日は親戚の叔母さんが誕生日で、夜の七時から誕生会をやるからって家に招待されたんだ。家から歩いて五分程度の場所だったし、七時間近になって漸く家を出たの。プレゼント片手に、外を歩いていると冬の所為か日は落ちてて周囲はもう真っ暗になってた。それでも別に毎日の様に歩いてる道だから、特に何も思わないで歩いてたんだけど。 ふと、近くの貸し出し駐車場の前で、お母さんが止まったの。どうしたのかな、と思って私も同じ様に立ち止まった。 「お母さん、どうしたの?」 「あ、ちょっと忘れ物しちゃったから、取りに帰らなきゃ!」  忘れ物?片手に持ってプレゼントに、携帯も、家の鍵も持ってるのに何を忘れたっていうんだろう。不思議に思って聞いてみても、お母さんは「忘れたから」「取りにいかなきゃ」を繰り返すだけで、肝心の何を忘れたのかは全く答えてくれなかった。私が渋っていると、突然お母さんは焦った様な表情で私の手首を掴んだ。そりゃあびっくりしたんだけど、お母さんの形相がいつもより数倍恐ろしくて振り払えなかったよ。  それからお母さんは私のぐいぐいと、異様な程の力で引いて道を引き返すの。暫く歩いて行くと、人通りも多い明るい道に出たんだけど…そしたらお母さん、急に力が抜けたみたいに私の手を離したの。それで流石に私も様子がおかしいと思って、さっきの事を聞いてみたんだ。 「いきなりどうしたの?お母さん、なんかおかしいよ。何を忘れたっていうの」 「駐車場」 「は?」  譫言みたいな呟く声に、私は思わず声を上げた。駐車場ってさっき通りかけたあの駐車場? 「駐車場がどうかしたの?」
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