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私が声を掛けるとお母さんは言いずらそうな雰囲気で、蚊の泣くほどの小さな声で言った。
「駐車場に人が居たのが見えたのよ。真っ黒な影みたいで、顔は分からなかったけど…でも完全に人間だった。そいつが、しゃがんだの」
「だから、何?何か落としたから、しゃがんだじゃないの」
「違う。しゃがんだのはいいの」
訳が分からなかった。全く持って支離滅裂な会話に、埒が明かないと思った私はある行動に出た。持っていたプレゼントをお母さんに押し付けて、そこで待っている様に伝えた。お母さんの言っている意味の真相を突き止めるべく、あの駐車場に戻ろうと思ったんだ。
でもお母さんも心配そうな顔をして、どうしても私を引き留めようとするから、一つだけ約束をしたの。
駐車場の近くまではいかない、って。
それで、言いつけを守りながら駐車場を少し離れた所から見てきたんだけど。確かに黒い人影が居るんだよね。白のワゴン車の後ろにぼーっと立ってて、時折フラフラしたり、しゃがみこんだりするの。それで、お母さんが言ってたのってこの人か、と思って戻ろうとした瞬間にある事に気が付いたんだ。私はさっきのお母さんと同じ様な反応で、その場から逃げ出した。
その影、白いワゴンとコンクリートの壁の隙間に居たんだけど…。
その隙間って十センチくらいしか間がない筈なの。
普通、立つのも、むしろしゃがみこむなんて絶対出来る筈がないの。
あれが、人間でないなら別だけど。
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