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或る日、母方の従妹の結婚披露宴に出席する事になった。多少着慣れない洋服を纏い、最初こそ浮かれ気分でスピーチやらを聞いていたが、早々に飽きてきてしまった。しかも、両親はスピーチが終わるとともに他の親戚の元へお酌をしに行ってしまう。そうなれば半ば置き去りにされて居心地が悪くなるのは子供―つまり現在の私。親戚の他愛もない世間話の様な、社交辞令の様な言葉を受け流す。そうするとあまりに反応が薄いのに嫌気が差したのか、彼らは二言三言で他の席へと移動していく。
もともとこういう場は得意ではないし、ニコニコ愛想を振りまくのはバイトの時だけで十分だ。私は流石に息が詰まる感覚を覚え、会場の外へと逃げ出した。途中で両親に「どこ行くんだ?」と聞かれたので、適当に「トイレ」と答えておいた。もうこれで深く追求される事もないだろう。映画館のホールのと似ている扉を潜り、閑散とした廊下の壁に凭れ掛かる。会場の熱気やら香水やらの匂いとは違う、少し埃臭い冷たい空気を目一杯吸い込む。しばらく此処でぼーっとしてよう。文字通り廊下のチカチカと点滅する蛍光灯を、なんの感情も無く見詰めていると、不意に肩を叩かれた。とんとん、と何とも軽い調子で叩かれたので、怪訝な表情のままで其方を振り向く。
「こんにちは、久し振りだね。うわあ、随分と大きくなったもんだ」
馴れ馴れしい男の人が私の顔をじろじろ覗き込みながら、声を上げた。口調からするに親戚なんだろうと、私もまた不器用な笑顔を浮かべた。折角抜け出てきたのに、全く持って意味がなかったようだ。
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