プロローグ

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そこで私の頭に、ピンと効果音でも付きそうな素晴らしいアイディアが浮かんできた。 つい先ほどまで最悪だと思っていた不の連鎖が、そこでぷっつりと切れたのだ。 どうして気が付かなかったのだろうか、この夏の暑さにホラーなんて持って来いのテーマじゃないか。 幸いにして私の親戚一同は少なからずは幽霊を見たとか、正夢を見ただとか、信じ難い話を持ち合わせている。 どれもテレビや漫画等では聞いた事が無い話ばかりだ。 途切れ途切れだったり、話の順序は滅茶苦茶だったりするが其処さえ直せればホラーとして立派に通用するものだ。 そうと決まれば世にも恐ろしい冊子にしてやろうと、私は意気込んだ。 百物語や四谷怪談に似た様な、全身の産毛が逆立つ怖い話を作ろうと。 しかしながら流石に百話なんて膨大な量の怖い話を、色んな人から聞き出すのも況してやそんな長い話を書くのも無理だ。 きっとどんなに要約しても、京極夏彦シリーズの単行本程の厚さになってしまう。 というよりそんな超大作を書いていたら、夏休みどころではきかないだろう。 そうなると他に切りのよさそうな話数は幾つだろうか。 まあ、なる様になるか。目途を付けたとしても、肝心の話がそんなに集まらなかったら意味もない。 大体の内容が決まればやる気が出てくるのも、私の現金な性分だ。思い付いたら直ぐ実行とばかりに、私は机の中から新品のメモ帳を取り出した。 気分はすっかりルポライターだ。 右手に黒い万年筆でも持っていればもっと様になったかも知れないが、残念ながら現在自分の手に掴まれているのは、安物のシャーペンである。 まあ、弘法は筆を選ばない、とも言うしなぁ。 そんな事を内心だけで呟いて、私は部屋を飛び出した。
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