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「ねえ、お父さん。怖い話してくれない?」
「はあ?何だよ、いきなり」
リビングに居た父は訝しげに太い眉を寄せながら、ゆっくりと私の方を見た。
茶色に焼けた色の肌着に、緩いスラックス姿の父を爛々とした瞳で見詰めた。
今は彼の姿がだらしないとか、そういう事は敢えて触れないでおく。
「怖い話なぁ…ま、一番怖いのはうちの家系だろうな」
「うちの家系?それって木嶋家の?」
私が不思議に思って父に問いかければ、彼は気怠そうにベットに寝転がりながら話を続けた。
「お前、爺さんが死んだ時の事覚えてるか?」
その問いかけに、私はもごもごと口を動かした。
覚えているに決まっているではないか。
小学三、四年の頃だ。はっきりと覚えているのは、祖父の訃報の知らせが届いたのが夜中だったという事。
慌ただしく出ていく両親を半ば寝惚けた薄目で見送り、私が詳しい内容を知らせられたのは翌朝だった。
死因は火事による一酸化炭素中毒及び、焼死。
祖父の寝室から出火した為、原因は寝煙草だったらしい。
葬儀に参加した際も祖父の顔は白い布で覆われており、父も
「顔までやけっちまっててな。お前は敢えて見る必要もないだろ」
と見せて貰えなかった。
「覚えてるけど、何?」
私がそういうと父は改める様に、軽く息を吐いた。
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