543人が本棚に入れています
本棚に追加
どれだけ悩んでも、キッチンの中にいるプロ二人には敵う訳も無い。
今待つべきは、試作品の出来上がりだ。
「……荒木さん。これ、どう思います?」
「…想像から掛け離れたような…そうじゃないような…」
キッチン内からうめき声が聞こえて、暇つぶしにエプロンを何度も折り畳み直していた私は手を止め、キッチンを覗いた。
店長と孝祐くんの前には、大きなかき氷。
……かき氷?
小さな氷山みたいなものが、存在感を主張していた。
二人は腕を組んで「うーん」と唸る。
今日の試作品は失敗に終わったようだ。
私が帰り支度を始めると、孝祐くんは捲った袖を戻してホールに戻ってくる。
ネクタイを鞄に押し込み、ジャケットを羽織る。
「また考え直して来ますよ、荒木さん」
「…片付けは俺に押し付けるのか」
店長の冷たい目を孝祐くんは爽やかな微笑で跳ね返す。
「…店長、お先に失礼します」
微妙な空気の中帰宅しようとする私の心情は、まさに複雑だった。
最初のコメントを投稿しよう!