33人が本棚に入れています
本棚に追加
男は特に気にも留めず、
無料の珈琲に得した気分で、そのまま彼女を待つが一向に来る気配がない。
男は諦め喫茶店を出て会社に戻る。
紳士服の右ポケットに入れてある例の煙草をとりだす。
立ち去った彼女の背中を
漂う紫煙に思い浮かべ、
せめて連絡先だけでも聞ければと後悔していた。
しかし
偶然とは起こるものである。
彼女が来たのだ。
―何処にって?
勿論会社に決まっている―
彼女は男の勤める会社の取引先の社員だった。
上司と会議室に入っていった彼女が戻るまで、
男は高まる鼓動を一服して落ち着かせることにした。
あの甘い香りが周りに広がる。
喫煙室からの景色を眺めていると、同じく喫煙室にいた名前も知らない女子社員が缶コーヒーをくれた。
が、すぐに立ち去ってしまった。
男はふと煙草に目を向けた。もしかしてこの煙草が…
と男が思うはずもなく。
煙草は残り一本に。
最初のコメントを投稿しよう!