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「……結構、重い」
持ち上げた乙月の体は、見た目がスレンダーだからと油断していたのだが、存外彼の体には重量があった。以前言った通り、彼は武道もそれなりに修めて居る。――とすると、この重みは彼の体に付いた筋肉の重みなのか。
そんな余計な事を考えつつ、「よっこいせ」と掛け声付きで肩に担ぐと、ずるずると布団へと引き摺っていく。そして、ドサッと投げ出すように布団の上に放った。
そんな起きない所を見ると、相当深く寝入っているらしい。
しかも、くぅくぅと幼い寝顔で寝ているから、何だか殊更(ことさら)可愛くなって、俺は思わず噴出してしまった。
「乙月は、こんなに俺を信用して良いのか?」
もしここに居るのが虎だったりしたら、一瞬で食べられるぞ?という忠告を込めて呟く。……が、“洋斗も大概、危ない”という事に思い至り『周りは危険な狼ばかりだな』、と‥彼が段々と可哀相になって来たのは、内緒の話しだ。
半端な時間に目が覚めてしまった為、どうにも目が冴えてしまって眠れない。
仕方なく俺は、乙月の布団の横に胡坐(あぐら)を掻いて座り込み、何時もは高い位置にあって、じっくりと見られない顔をジッと見つめ、観察する事にした。
「お前も、先輩たちに負けず劣らず男前だよなぁ……」
“先輩たち”という単語の中には、勿論、例の問題児二人組みも含まれて居る。
綺麗に整った鼻梁(びりょう)、キリッとした男らしい眉。
つつつっと指の腹で思わず鼻を撫でると、 流石にくすぐったさを感じたのか、乙月は眉間に皺を寄せて身じろぎした。
正直『ごめん』と思うよりも『面白い』と思ってしまった俺を許して欲しい。
強いて言えば……“可愛いペットを背後からつついて、不思議そうな顔で振り向かれた時の、あの何とも言えない愛くるしさ”を感じたからこその行動ではないだろうか。――多分。
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