Ⅶ、選択肢のひとつ

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「………ッ!」  森に面した側の、月光が淡く差し込むその向こうで側でジッとこちらを見つめる白い影を見つけたからだ。  ぶわりと一気に鳥肌が俺の体を襲う。  そして、向こう側に居る“白い何か”に対して危機感を訴える。  ――けれど、そんな俺の意思に反して、俺の目は、そこから動いてくれない。  ガチガチと震える手で、ずるりと後ろへと下がる。  すると、それに合わせて白い何かも、こちらに向かって動いた気がした。 (どうしてっ!)  ちらりと乙月に目線を向けると、深い眠りに入って居るのか、コロリと寝転がるだけで、起きる気配は無い。  しかし、ここで乙月を巻き込むのはどうなのだろう、と戸惑ってしまう自分も居る。『叶芽は本当、お人よしなんだから』と……不意に千里に言われた言葉を思い出した。  そんな事を考えた瞬間。俺の頭を激しい頭痛が襲った。  以前にも燐火の森で感じた、あの鈍痛だ。  脳内を襲う痛みが、俺の思考回路を閉じ、伝達を鈍くさせて行く。そして、漸(ようやく)く頭痛が治まった頃には――白い影がはっきりと見え始めてしまっていた。 「そんな……」  殺される、と思った。  何故思ったのか。それは、多分今までの経験からだろう。けれど同時に、白い影がこの学園に齎(もらた)している被害を考えると『何とかしなければ』とも考える。  しかし、今の俺は不甲斐ない事に眼球すらも恐怖で動かせないのだから、逃げようにも、立ち向かおうにも、どうしようもない。 「い、つき……ッ、」  思わず近くで眠っている後輩の名を呼んでみる。  けれど……本の山の中で眠る彼は、まるで泥の様に眠り、起きる気配も、ピクリと動く気配も無い。
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