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若干絶望が支配する俺の感情。
徐々に近付く白い気配。逃げる事も、戦う事も出来ない俺。
そして、その白い影の輪郭部分が完全に見え始めた頃――俺は大きく目き、恐怖を薄れさせた。
その影の形が、思っても見ない、恐怖とは真逆の形をしていたからだ。
(白い、狐だ――)
まさしく、それは日本書紀やら神話時代に本で見かける、俺が想像する限りでの“狐の神”そのものの姿をしていた。
白くスラリとした肢体に、細く赤い瞳。猫よりも中心部が丸みを帯びた尾、闇の中で輝くようにして立っている。
視覚化されて、恐怖が薄れた俺は、思わずその生物(らしき物)をじっくりと観察して居た。
――まさか、泉付近に住み着いた狐なのだろうか。
そう判断しようかどうしようか俺が迷った所で、狐は不意にくるりと体を反転させると、そのまま森の中へと戻って行ってしまう。
けれど森に入る直前、まるで俺を招くかの様にこちらを振り向いた。
「……来い、って事か?」
警戒心の薄れた俺は、やや腰を浮かしかけ……ふと、湊先輩が言っていた言葉を思い出す。湊先輩は確か、こう言って居なかったか?『お前は知り過ぎるな。決して踏み入るな。俺が代わりに全てを受け止める。だから・・間違っても、惑わされるな』――と。
これ以上、ただでさえ忙しい会長や萬部に仕事を増やさせる様な真似はしたくない。でも、怪奇現象が何なのか……それを知る機会なのではないか、とも思う。
それに何より、あれが害有る物なのだとしたら、狐が向かって行った方向には湊先輩も居るはずなのだ。
俺は、グッと決意を込めて拳を握り締めると、その場に立ち上がった。
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