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動物らしくない、人間の様な行動に、俺は思わず寒気を昇らせる。
しかし、狐はぼんやりとぼやける事も、その場から動く事もしない。……そして、この前感じた様な嫌な気配も感じなかった。
「………、」
キュッと手を握り込み、俺は狐へと一歩踏み出す。
どうしてかは分からない。
ただ、“湖を見なければならない”という衝動に駆られたのだ。
また一歩、再び踏み出す。狐はじりじりと近付く俺を、ただただ見つめていた。
そして、湖へと到達したその瞬間。俺の頭の中を痛烈な頭痛が襲い、吐き気が込み上げる。
「……っ、う」
思わず蹲(うずくま)る俺を、狐がクイッと引いた。
――否(いや)違う。狐なんかじゃない。
目線を上げた俺が目にしたものは、真っ白な髪をした男の人だったのだ。そしてその人は、狐のような瞳孔の細い金色の瞳をこちらへと向けて、更に俺を引く。
しかし、俺が呆然としてその場から動かない事を知ると、形の良い唇を動かし“言葉を喋った”。
「こち…へ……、おいで。連れて……あ…るから。こち…へ――お……で」
低く、心地良い、不思議と安心できる声だ。
その声で俺を誘い、感慨深げな声で更に言葉を綴る。
「一体これは……?」
そして、その状況から立ち直った俺が放ったのは、そんな素っ頓狂な言葉だった。
その俺を、目を細めて見つめ……狐、だった人は、俺の両手首を掴み上げた。
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