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「…色の……が、も…すぐ――そう、もう……ぐ鼓動を打つ」
「……、」
「そう。君の……を形成す…、君の……りを、その…たる……」
「………?」
(何を、言ってる)
雑音の様なノイズが、彼の声にかかり、良くは聞き取れない。それに、頭痛が酷く、そこに吐き気が重なって居るから、余計に集中力が乱れてしまう。
けれど、その狐の様な男から目線を離せなかった。
何故なら……心を穿(うが)つ様な、そんな予感が俺の頭の中を支配して居たからだ。
彼は“根本たる何かを知って居るのではないか”と。
そして彼は、俺の両手をグイッと強く引き、湖へと更に近づけ、手を翳(かざ)す。
すると不思議な事に、湖の中にぼんやりと銀色の丸い物が映し出され――次の瞬間、そこから一冊の本が物凄い勢いで飛び出して来た。
それを片手で受け止め、軽く嘲笑(あざわら)うかのようにクックッと喉を鳴らす。
「ああ、――なるほど、そういう事か」
そして、その本をパラパラと捲(めく)った後で、それを白い着物の襟に挟み込むようにして仕舞うと、再び俺に向き直った。
大分雑音の取れた声で、囁く様にして呟く。
僅(わず)かに、彼自身、話し辛そうにしているものの……先(さっき)までの様に解読できない程ではない。
そして、向き直った彼は、俺にこう問いかけた。
「何度も何度も殴りつけ、それを繰り返し行い、それは“死ぬ”とは違う結果を求める事。……それは、なんと呼ばれる感情だ?」
「なにを‥言って……?」
「私は、その感情しかないのだ。略奪され、獄に囚われ、そして喪った」
「え――」
彼の言葉に、俺は言葉を失う。
なんと呼ばれる感情なのか、その答えを俺は直ぐには出すことが出来なかった。
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