Ⅶ、選択肢のひとつ

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「例え話をしよう。報われたいが為に、ただ幻想を抱き綴った。その結果彼が得た物はなんだったのか」 「……」 「例え話をしよう。崩落した塔を造り直し、結果手に入れたのが只の絶望であった時、その繋ぎ目の先で彼が見た物は何だったのか」 (この人は、一体……?)  何が言いたいのだろう、と俺は思った。  恐らく、何かしらの意味を持った言葉なのだろう。けれど、それは“彼にとって意味ある言葉”であり、“俺にとっては意味を成さない言葉”なのでは無いだろうか。  ――そしてこうも思う。  彼もまた、虎と同じ様に、その答えを求めて居ないのではないか、と。  そんな俺の思考を読み取ったかの様に、狐だった人は、やや瞳を細めて、こちらを胡乱気(うろんげ)に見つめた。 「もうひとつある。これもまた例え話だ。 「うん」 「結論、“殺される人間”が身近に居たら、どう行動する」 「……それは、助けたい、だけでは駄目?」 「ああ、無理だ」  やけにキッパリと否定し、彼は首を振る。  そして、何か答えを求める様に俺をジッと見つめる。    その瞳を見返しながら俺は思う。   何故だか分からない。何故だか分からないけれど、彼にはきちんと答えるべきだと、……でないと“取り返しの付かない事”になる。そんな気がして、頭の中で冷静に考えた。  結論、殺される人間――、その言葉に、俺はあの夏休み前の出来事を思い浮かべていた。情景を思い浮かべ、じわじわと滲む記憶を手繰り寄せる。 「俺は、結局何も出来ないのかもしれない」 「そうか。それもまた、選択なのだろう」 「――でも、それを良しとは思わない。後悔をしない訳じゃない。助けたいと思う」 「……、」  俺の答えに、途端黙り込み、彼は何か考えるように俯いた。
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