Ⅶ、選択肢のひとつ

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「やっと、――やっと、あんたを見つけた」 「……!」  突然現れた人影に、俺は思わず瞠目(どうもく)する。  なぜなら……目の前で、奇妙な木刀を相手へと突きつけ、パリパリと音を立てている木刀を横へと薙ぎ払った人影――それは、見間違えようも無く、俺の隣席の男であり、転入生であり、問題児であり、トラブルメーカーであり、風紀委員総括であり……。疲れた。とにかく諸々の厄介な称号を、好き好んで手に入れた、川柳路 洋斗その人だったからだ。 「ひ、洋斗……?」  思わず名前を呼べば、彼は「なぁにー?」と、気の抜けた返事を返す。  ……本気で脱力した。  こんな訳の分からない状況で、それでも普段通りを突き通す洋斗は‥ある意味、彼らしい。その根性だけは認めよう。だがしかし、それと学園内で乙月と争って揉め事を起こす事、は別物だ。 「んで、怪奇現象の主(あるじ)さん。俺は今、凄くすごーく腹が立っているわけなんですよ。どうしてか分かりますか?」 「………、」 「俺が襲撃される道理が分からない、という事がひとつ。それから、あんた、本気で見ず知らずの俺のこと、亡き者にしようとしてたでしょう。その理由を聞かせてくれませんかねぇ」 「………、」  湖の上にゆらゆらと浮かび、“とりて”と名乗った彼は、口を真一文字に結び、口を開く気配は無い。  その彼に焦れたらしい洋斗は、木刀を肩へと担ぎ、不快そうな表情を露(あらわ)にして「黙して語らず、ね」と皮肉たっぷりに呟いた。 「洋斗、一体これはどういう……」 「んー? ああ、そっか。かなちゃんは知らないんだっけ。……あ、違う。知っちゃいけないんだっけ?」 「……?」  むぅ?と頭を捻り、考える様な仕草をする。  が、「まぁ良いか」とだけ口にして、手に持っていた木刀で、やや下がりめになった学生帽を押し上げた。
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