Ⅶ、選択肢のひとつ

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「ごめんね、かなちゃん。もしかしたら、俺が――俺も、だから」  『だから?』と、そう問うように首を傾げると、涙を誤魔化すようにギュッと俺に抱きつき、呟いた。 「もう、逃れられない。俺も、かなちゃんと一緒に――。だから、だから……ごめんね、ごめん」  何度も何度も謝る洋斗。  それを、訳が分からぬまま、背を擦り落ち着けようとする。しかし、彼自身落ち着きたくないのか、自分を制御できないのか、俺の肩口に顔を埋め、子供の様に嗚咽を上げる。  ――そして漸(ようや)く洋斗が落ち着きを取り戻し始めたのは、息を切らせた乙月が俺を探しにやって来た時で。  同時に、普段眉ひとつ感情的になっても動かさない彼が、動揺した表情で口にした言葉に、今度は俺が気絶するほどのダメージを受けたのだった。 「千里部長が、居ないんです……ッ!」  湖が凍りついたその日、――眠っていたはずの千里が消えた。  他人にとっては“それだけ”であり、俺にとって十分“それ程に”な出来事だった。 天辺に棲んでいた孤独な狐、END  
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