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少女は強かった。
精神的にではなく肉体的に強かった。
これといって誰かと比べたわけではなかったがそれでも少女は強かった。
夜。
少女にとって自由な時間だ。
いつも一目を気にして力を抑えている日中とは違い夜にはそんな心配はいらない。
少女は飛ぶ。
水たまりを飛び越えるかのようにビルを越える。
いち、に、さん。
出来るだけ家に帰る時間を伸ばすように高く、高く
少女の家庭は冷めていた。
少女の家は5人家族だった。
だった。
父、母、兄、弟、そして少女。5人家族。
しかし2年前、弟が交通事故で亡くなった。即死だ。
葬式では当然家族は涙を流した、もちろん少女も。
しかし今思うとあの悲しんでいた家族はなんだったんだろうと思う。
あの涙は世間体を気にしての演技だったのか、それとも本心から来るものなのか。
おそらく前者だろうと最近、仏壇に被っている埃が増えるに連れてその思いは増していく。
いち、に、さん。
少女は飛ぶ。
このまま飛んで、飛んで飛んで弟の所まで行ってしまおうか。
少女は月に手を伸ばす。体が落下し始めたらくるりと一回転し猫のように着地、
で走る。
あーでも。
うち、あんまり弟の事覚えてないや。
やだやだ、年取ると物忘れが激しくなる。
少女は思う。
あんなつまらない家でも去年まではそれなりに楽しかったと。
今は大学受験のため猛勉強をしている兄とはそれなりの関係を築いていた。
もっとも、少女はそれでは満足しなかったが我慢した。
我慢して我慢して我慢して今年の春に拒絶された。
受験生だから構っている時間がない
とゲームの画面越しに。
傷ついた。
傷ついて傷ついて傷ついてかぶれて見るに耐えない傷口を見たくなくて、少女は飛んだ。
今思えば受験が終わったら構ってくれただろうが気付いた時には月がいつもより近く感じた。
遅かった
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