俺と私とあの子。

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「あ、黒田さん!見てくださいよ、あれ!」 乃依の指差す方向へ目を向けると、赤く染まった葉がたくさん道端に落ちている。 「なんだよ。ただの紅葉だろ」 「“ただの”ってなんですか。秋が感じられていいじゃない」 むーっと頬を膨らませ、繋いでた手を放して紅葉を拾いに走った乃依。 …ったく、まだ子供だな。 呆れながらも、楽しそうに紅葉を拾う乃依を愛しく思う。 「きゃあああっ!?」 いきなり奇声を発した乃依は、涙目になりながら俺のところへ走ってくる。 「どうした?」 さっきまで手に持っていた紅葉は、なぜか今は手にしていない。 「虫ついてた…」 この世の終わりみたいな顔をして俺の胸に顔を埋める乃依の頭を、笑いながら撫でる。 「地面に落ちてる紅葉拾うからだろ」 「だって綺麗だったから…」 ほんと可愛い奴。
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