恋の予感。

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別に、特別かわいいわけでも、特別目立つわけでもない。 なのに、俺には誰よりもかわいく、誰よりも輝いて見えた。 「鳴海梓くん……って、君のこと?」 赤い縁のメガネ。 膝丈のスカート。 真っ黒なセミロングの髪。 ああ、真面目な女だ。 第一印象はそんな感じ。 「そうだけど」 「よかった!……これ、落としましたよ?」 この笑顔に、落ちた。 メガネのレンズ越しに細められた目と白い歯が覗く唇が同時に弧を描く。 派手すぎず、地味すぎず。 可愛すぎず、不細工すぎず。 きっと、頭はいいんだろうけど。 俺は目の前に差し出された青いハンカチを受け取る。 「どうも」 一目惚れしても、当然表情には出さないし、愛想をよくするわけでもないし、ましてや告白するつもりもない。 どうせ冷める。 それまで待つ。 「綺麗な色のハンカチですね。青空みたいで。それに、英語で名前が、刺繍されてるのも素敵」 さっさとその場を去ろうとした俺に掛けられた言葉。 じっとガン見してやると、また目と唇が弧を描いた。 こいつは、笑うのが好きなんだな。
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