恋の予感。

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「私、あなたの名前聞いたことがあるの。いつも学年トップの鳴海くん」 「……」 「私、どうしてもトップ10にすら入れないから羨ましかったんだよねぇ」 「……」 「本人見たの初めてだけど、会えて嬉し………って、私…喋りすぎだよね?ごめん」 俺が何も言わないのを迷惑だったから、と捉えたのか、申し訳なさそうに頭を下げる。 別に、迷惑なわけじゃないし、喋りすぎだと思ったわけでもない。 ただ、なんと答えていいのかわからなくて、何か言ってしまえば、口の悪い俺はこの女を傷つけてしまいそうだったから。 「じゃあ、お互い頑張ろうね!ばいばい、鳴海くん」 鈴のような声で俺の名前を呼んで、細いその足で俺に背を向けて、小さい手で俺に手を振る。 無意識に、その小さな手を掴んでいた。 「えっ…?」 当然の反応だと思う。 突然手を掴まれたんだから。 「えっと……鳴海くん?どうしたの?」 「……」 何も言わず、じっと女を見つめる。 戸惑う様子も、照れる様子もなく、コイツは冷静だ。 なぜか急に口を開くのが恥ずかしくなって、開きかけた口を閉じた。 相手にとったら、いい迷惑だ。 さっさと言いたいこと言って教室に帰るか。 「名前、教えろ」 ずっと聞きたかった言葉を言ってしまえば、心がすっと軽くなった気がする。 女はまた鈴のような声で、あの顔で笑った。 「木原鈴音です」 冗談か?ってくらい、そいつにピッタリの名前。 ――恋の予感。 もう、すでに落ちてるみたいだけどな。
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