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薄れゆく意識の中で、私は美桜さんと約束をした。気がする。
お母さんが氷を当てて冷やしてくれていた。だけどそれよりも私は美桜さんに話しかけた。
「ね、美桜さん」
「……天、なに?」
美桜さんの瞳は、涙のせいでゆらゆらと揺れていた。泣いたら、可愛い顔が台無しだよ、美桜さん。
「私、戻ってきますから。戻ってきたら、また一緒に試合出て、先輩たちのために、全国に行きますよ」
「そっ、そらぁ……」
美桜さんの瞳にたまっていた涙は、私の名前を呼ぶと同時に、こぼれ落ちた。
その涙は、美桜さんの頬を伝って、私の頬へと滑り落ちてきた。
「美桜さん、泣かないでください。私と、約束、しましょ?」
私は美桜さんに右手の小指を向ける。
「一緒に、全国制覇、しましょうね」
私がそう言うと、美桜さんはぼろぼろと涙を大量にこぼしながら、私の小指に自分の小指を絡めた。
「うんっ……!全国だよ。天も、一緒に、出るんだからね!天は、このチームの立派な、ルーキーなんだから!」
「はい、美桜さん」
もう、膝は痛くなくなっていた。
きっとそれは、痛すぎて感覚が無くなったのだろうから、状態としては絶対に良くない。
でも、痛みがないこの時が、私には至福の時のようにも思えた。
痛みがないお陰で、美桜さんと笑顔で約束出来た。
笑顔を作ることないから、自然のままでいられた。
それは、とても嬉しいことだった。
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