~プロローグ~

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~プロローグ~ 春。 小鳥がさえずる森の中を 一人の少女が駆けていく。 その先には、 大きな木が一つだけ立っている丘があるのだ。 『誰か私を呼んでる。私を待っている。』 少女は何かに導かれるように 夢中になって走った。 『はぁ…はぁ…』 息を切らして たどり着いたその先に、 一人の少年がいた。 大木に身を寄せ座っている。 その光景は忘れもしない。 とても幻想的だった。 降り注ぐ鮮やかな光の中ひとり、 少年は涙をながしていたのだから…。 …時が止まったような気がした。 “ザッザッザッ” 少女は一歩一歩近づいてゆく。 『なぜ泣いているの。もう泣かないで。』私まで悲しくなる。 春なのに…。 少年はこちらに振り向いた。 その丘には 大きな木以外何もない。 ゆるやかな風が吹く。 淡い栗色の髪がなびいて、 深い悲しみを背負った瞳が私を見つめる。 『君の名前は。』 彼がたずねる。 『…サ、サラ。私の名前はサラよ。あなたの名前は。』 少年は優しく微笑み、うつむいた。 『いい名だね。ぼくには名前がないんだ…。だから、好きなように呼んでいいよ。』 少女は戸惑った。 なんて呼ぼう…。 そうだ、春だ! ハルって呼ぼう。 『ハル…。』少女は消え入りそうな声でつぶやいた。 『ハル…。いい名前だ。ありがとうサラ。』 そう言うと 少年は少女の横を通り過ぎ、 森の奥へ姿を消した。 『あっ、ちょっと待ってハル!』 サラは追いかけようとしたが、 木の根につまづいて転んでしまった。 『いたっ…。あれ、これは…。』 転んだ目の前に落ちていた綺麗なネックレス。 サラは、そのネックレスに見とれた。 『キレイ…。ハルの物だろうか。』 サラはそれを拾った。 また、ハルに会える気がしたから…。
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