壱之章

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(この客初めて会った気がしない)そう思いながらぼんやり見ていると禿(かむら)が部屋に入って来た 「此花姐さん、」名を呼んだだけでジッと見つめてきた 「はいな、待っとき?すぐに」 禿に待つよう言い下座にいる旦那を一瞬だけ見て此花は席を立った 部屋から出ると禿から煙管を受け取り吹かした 「此花姐さん、いつもの旦那さんです。」 禿は歩きながら心配そうに伝える 「安心しとき、姐さんが居るから。それにあの旦那さんは禿がニコニコしてると菓子をくれるからね」 菓子の名を聞き禿は嬉しそうに笑った 一旦自分の部屋に帰り簪を差し替え羽織りを替えた (私の趣味ではない、だがとてもいい生地だ) 鏡に写った自分自身に暗示をかける、 (私はあの人に抱かれるんだ) 目をそっと開き向かう、一歩一歩ゆっくりと歩く、愛しい貴方、今会いに行きます、貴方、貴方・・・
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