いせかいにいく

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これでもかという程自己の存在をアピールしてくる太陽やどこまでも晴れ渡る青い空に嫌気がさし、曇天の空を望んでいた男は、ふらりとビルへ足を運んだ。足が望む方向へ進んだら、辿り着いた。 廃ビルなのであろうそこは、以前ここを使用していた人が用いていたと思われるデスクや埃を被ったファイルなどが散乱していた。汚く、埃くさく、暗い、そんなところである。そんな場所に男は、親近感のような、どこか懐かしさにも似た、不思議な感情を持っていた。 物色、とまではいかなくとも興味をそそられるものに手を伸ばしては、そこら辺へと放置して、また手を伸ばしては放置、と繰り返し行っていたために、男がこのビルへ入ってきた時よりも、埃が舞い、よりいっそう汚くなった。けれども、どれ程埃が舞おうと男はこの場所が嫌いになれなかった。懐かしいのだ。記憶の片隅にあるなにかをじわりじわりと刺激してくるのだ。 なんだったか、思い出そうと歩みを進め長い階段を踏み進む途中に男は気が付いた。ここは、―――。 確証が得られることはなく、屋上へと到達してしまった。こういった場所は普通人が立ち入れないよう扉に鍵が掛かっているはずだと駄目元でノブを捻ると扉はキイ、と古びた音をたてて、簡単に開いた。 「なんだ、開くのか」 開いた先に見えるのはだだっ広い屋上、ではなくて先の見えない程長い階段。非常階段や螺旋階段を彷彿とさせる鉄製の階段は長くどこまでも続いているようである。普通、恐怖の念を抱いてもおかしくはないこの状況であるにもかからわず男は臆することなく足を進めた。 「ながい階段だなあしかし」 どれ程上がったのかわからないが、男が入ってきた扉が見えなくなった頃男の足は重く足枷でも付けているのではないかと疑わしく思えるくらいに疲れていた。
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