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ふと足音が聞こえてきた気がして、狐白は上体を起こした。
月光の下、一面の彼岸花の向こうに現れたのは尊だった。
「尊……」
狐白と同様に体を起こした椿が彼の姿を見て小さく呟いた。
狐白は少し躊躇った後に立ち上がり、尊を待つ。
近付いて来る巨大な妖気。
体が震えてくる。
そして手を伸ばせば届く距離に彼が来たとき、狐白は口を開いた。
「……来てくれるって思ってたぜ、尊」
「…………」
狐白の優しい言葉に答えずに尊は黙り込み、少しの間の後彼を睨むようにしながら小さく呟くように言った。
「……オレはてめぇが嫌いだ。今でもそれは変わらねぇ」
「嫌いでも良い。殺したくなったら、殺したって良い。お前には敵わねぇもん」
へらっと笑いながら狐白はそう言った。
尊はその言葉を聞いて視線を逸らし、軽く舌打ちしてふぅ、と一息ついた。
「……その言葉忘れんなよ。オレはいつだっててめぇを殺せんだ。今この瞬間にでもな」
「ああ、わかってる」
「肝が据わってんな……。オレを前に怖じ気つかねぇなんてよ……」
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