720人が本棚に入れています
本棚に追加
「すみません……随分と久しぶりに力を使ったもので……。力の感覚が分からずに、つい……」
尊はそう言って、困惑した表情を浮かべた。
「満月だからだろ? 満月は狼の力を倍増させるとかなんとか……」
「ええ、それにも一因あります。だから満月は嫌いなんですよ。本能が一番働いてしまう日ですからね」
尊は答えて、自分の手を見下ろした。
もう震えていない。大丈夫だ。
「逆に新月の日は一番人間に近い状態でいられますから。唯一安心出来る日です。気を抜くと妖怪に戻ってしまいますから……」
「そっか。だから新月の夜は外に出てたのね?」
椿の言葉に尊は頷いた。
「俺は逆なんだよな。新月の日が一番力が強くて、満月の日が弱い。あ、じゃあ黙想は満月の日にやりゃ効率が良いのか」
「そうですね。もっと早くに気付いてあげるべきでした」
そう言ってお互い笑う。
こうして見ていると、尊が狐白を憎んでいると言うことが信じられない。
「さぁ、ではお喋りはここまでにして……狐白、お願い出来ますか?」
最初のコメントを投稿しよう!