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椿は一度大きく息を吸うと、自分を落ち着かせて小さく口を開いた。
「……間違ってたら、ゴメン。あの時、あたしを助けてくれたのって、尊……だよね?」
「あの時……?」
「十一年前。十一年前にあたしを助けてくれた妖怪さん。それって、尊でしょう?」
言い終わると、椿は心配そうな表情を浮かべながら尊をじっと見下ろした。
尊は少しの間何も反応を示さなかったが、不意に柔らかく微笑んだ。
「覚えていてくれたんですね。ありがとうございます」
「……やっぱり? やっぱりそうだったの?」
「ええ」
尊の返答に、椿は涙が込み上げてくるのを感じた。
それはすぐに目元までやって来て、溢れ出した。
ぽろぽろと涙が零れていく。
「ずっとずっとお礼言いたかった……! こんなに傍にいたのに気づけなくて、ゴメンなさい!」
「謝らないで下さい。大丈夫ですよ。むしろ、こちらがお礼と詫びをしないといけません……」
尊の小さい声に、椿は泣きながら首を傾げる。
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