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「私なんかのことを覚えていてくれて、とても嬉しいです。ありがとうございます。ただ、お兄さんを救えなくて……すみませんでした……」
「そんなの尊のせいじゃない。お兄ちゃんは、あたしのせいで死んじゃったの……。尊は悪くない」
椿はそこまで言うと苦しくなってしまって、何も言えなくなってしまった。
ぐすぐすと泣きながら、何度も涙に濡れる目元を拭う。
尊はそんな彼女を見上げて、ふっと表情を緩めた。
「……あなたがこの年になるまで生きていて、それでいて私のことを覚えていて下さった。本当に、嬉しいです」
「ここまで生かしてくれたのは尊。あの時言えなかった分も、今日の分も……助けてくれて、本当にありがとう……!」
椿は整わない呼吸の中でそう言って、深く彼に頭を下げた。
涙が止まらない。
十一年間ずっと心にしまっていた気持ちがどんどん溢れて来る。
「頭を上げて下さい、椿。そのお気持ち、大事に胸の内にしまっておきます。こちらこそ、本当にありがとうございます」
尊はにこりと笑い、重たい腕を上げて彼女の肩辺りに触れた。
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