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ぴくりと反応した椿を見上げながら、尊は優しい声音で言う。
「あの時あんなに小さかったあなたが成長して、再び私の前に現れた……。運命でしょうかね。こうして会えて、感謝していただけたなら……あなたを助けてよかったと、そう思います」
言い終わると、尊はふっと微笑んだ。
椿もその表情を見て微笑む。
「……でも尊、どうしてあたしのこと助けてくれたの? 妖怪さんなのに……」
「正直、自分でもよく分からないんです。……村が妖怪に襲われていて、気付いたら、あなたの前に立っていました。記憶が、あまり無いんです」
もしかしたら、無我夢中になっていたのかもしれませんね、と尊は笑いながら付け足した。
事実、自分でもよく分からない。
今まで殺戮を繰り返し、人間に興味など抱くこともなかった自分が何故幼い椿を助けたのか。
一人で留守番をしている椿の為に、急ぎ慌てて家に戻ろうとしている柊を見た時、何か不思議な感じがした。
でも、その不思議な感じ、つまり、彼等を助けたいと思ったのかは分からない。
普段なら、見殺しにしていたのに。
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