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「人間も妖怪も、時が経つと変わるのかもしれませんね」
「…………」
尊の言葉に椿は俯くように下を向いた。
「とにかく、私は今とても嬉しいです。こんな感情は初めてです……」
尊は笑顔でそう言って、椿の体から手を離した。
そして一息ついて体を落ち着かせる。
「すみません……もう少し寝ますね。私らしくない……。妖力を発散しすぎて倒れるなんて……」
苦笑いしながら目を閉じて、言葉を続ける。
「放っておいて大丈夫ですからね。数時間体を休ませれば治りますし、まあ、満月が過ぎれば良いだけの話なのですが……。では、おやすみなさい」
「うん、おやすみ。ゆっくり休んでね?」
「ありがとうございます」
目を閉じたまま尊は微笑み、そしてそのまま深い眠りについた。
椿は腫れぼったい目元に触れながら一人で笑顔になり、尊が持ってきてくれた荷物の中から人形を取り出した。
十一年前もこの子を助けてくれた彼。
唯一の家族を、失わずに済んだ。
椿は眠る尊を見下ろして、心の中で何度も深く彼に感謝した。
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